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オープンソースなセキュリティアラート管理プラットフォームである`Warren`について調べてみた

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kiitosu
著者
kiitosu
画像処理やデバイスドライバ、データ基盤構築からWebバックエンドまで、多様な領域に携わってきました。地図解析や地図アプリケーションの仕組みにも経験があり、幅広い技術を活かした開発に取り組んでいます。休日は草野球とランニングを楽しんでいます。
目次

はじめに
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先日、オープンソースのセキュリティアラート管理プラットフォーム Warren について知る機会がありました。非常に興味深いツールだったので、その概要と特徴を調査してみました。

この記事は、Warren の公式ドキュメントを参考に、筆者の所感を交えながら解説します。

Warrenのコンセプト
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Warrenは、AIによる高度な分析と、チームによる効率的なインシデント対応を融合させたセキュリティアラート管理プラットフォームです。多様なソースからセキュリティアラートを集約し、Regoポリシーに基づいたルールで評価。そして、Slackとのシームレスな連携とモダンなWebインターフェースを通じて、チームの協調的なインシデント対応を強力にサポートします。

このプラットフォームは、現代のセキュリティ運用が直面する、以下の主要な課題を解決するために設計されています。

  • アラート疲れの軽減:類似したアラートを自動的にグルーピングし、AIがコンテキストに基づいて優先順位付けを行うことで、ノイズを大幅に削減します。
  • 初期対応の自動化:外部の脅威インテリジェンスをリアルタイムで活用し、これまで手作業で行っていた初期分析を自動化します。
  • ナレッジの集約と活用:アラートの調査プロセスを一元管理することで、組織内に散在しがちな知識を集約し、将来のインシデント対応に活かすことができます。
  • 円滑なチーム連携:Slackとのネイティブな連携により、チーム間のコミュニケーションを効率化し、迅速な意思決定を促進します。

Warrenはチケットベースのワークフローを採用しており、個々のセキュリティアラートを管理しやすいチケットに変換します。AIエージェントがそのチケットを分析し、解決までの全プロセスを追跡することで、対応漏れや遅延を防ぎます。

:::message 従来のアラート対応では、発生のたびに内容を評価し、不要な通知であれば手動でルールを追加するという、地道な作業が欠かせませんでした。WarrenのようにAIが優先順位を付けてくれるのは非常に効率的ですが、一方で検知漏れのリスクも気になるところです。しかし、初期分析の自動化や、情報集約とSlack連携によるチームの活動効率化は、非常に魅力的だと感じます。 :::

主な機能
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アラート処理パイプライン
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Warrenのアラート処理は、以下のパイプラインで構成されています。

  • アラート受信(Alert Ingestion) AWS GuardDutyやSIEMシステム、Pub/Subメッセージングなど、さまざまなソースからHTTPエンドポイント経由でセキュリティアラートを受信します。
  • ポリシー評価(Policy Evaluation) 受信したデータは、Regoポリシーエンジンによって処理され、それが本当に対応が必要なセキュリティアラートであるかを判定します。
  • アラートのグルーピング(Alert Grouping) 意味的な類似度に基づいてアラートを自動的にクラスタリングし、類似インシデントの重複対応を削減します。
  • チケット作成(Ticket Creation) グルーピングされたアラートは自動的にチケット化され、構造化された調査と対応プロセスの追跡が可能になります。

:::message Regoは、オープンソースのポリシーエンジンであるOPA (Open Policy Agent)で採用されているポリシー言語です。例えば、AWSのサブスクリプションフィルターで複雑なフィルタールールを実装するのに比べ、Regoを使えばより宣言的で管理しやすいポリシーを記述できそうです。アラートのグルーピング精度は気になりますが、チケットの自動作成は非常に便利だと感じます。 :::

AIによる分析機能
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Warrenは、Google Vertex AI(Gemini) と統合されており、インテリジェントな分析を提供します:

  • メタデータ抽出 生のアラートデータから、タイトル・説明・主要属性を自動生成
  • 脅威インテリジェンス連携 OTX、VirusTotal、URLScan、Shodan、AbuseIPDB などの外部サービスに問い合わせ、侵害の兆候(IoC)を取得
  • セキュリティ分析 アラートのパターンや過去データに基づき、状況に応じた分析と推奨を提供
  • 対話型チャット アナリストが特定のチケットについて質問形式でやりとりできる会話型分析を実現

:::message まさにLLMの能力を最大限に活用した機能群ですね。特に、脅威インテリジェンスの自動連携は、調査の初動を大幅に迅速化してくれそうです。一方で、多くの外部サービスと連携するため、LLMのコンテキスト長やAPIの利用コストが気になるところです。 :::

協調ワークフロー
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Warrenは、チームの協調的なワークフローを支援するための、以下の機能を提供します。

  • Slack連携 ネイティブなBot統合により、リアルタイム通知、インタラクティブなボタン操作、そしてチームでのディスカッションをSlack上で完結させることができます。
  • Webダッシュボード Reactで構築されたモダンなWebインターフェースで、チケット管理、アラートの詳細閲覧、調査状況の追跡などを行えます。
  • GraphQL API カスタムツールとの連携や、独自の自動化ワークフローを構築するための、柔軟で強力なGraphQL APIを提供します。
  • ポリシー管理 バージョン管理されたRegoポリシーにより、アラートの検出・評価ルールを柔軟かつ安全にカスタマイズできます。

:::message GraphQL APIが提供されているのは興味深いですね。これにより、単なるUIの提供に留まらず、Warrenをプラットフォームとして、他のシステムと柔軟に連携させることができそうです。 :::

外部連携
#

Warrenは、以下の主要なセキュリティインテリジェンスソースと接続できます。

  • 脅威インテリジェンス: AlienVault OTX, VirusTotal
  • URL解析: URLScan.io
  • IPレピュテーション: AbuseIPDB, Shodan
  • マルウェア解析: abuse.ch MalwareBazaar
  • セキュリティ分析: Google BigQueryによる大規模なデータ分析とパターン検出

:::message 知らないツール名がいくつかありましたので、少し調べてみました。

  • AlienVault OTX: 脅威インテリジェンスを共有するためのオープンなプラットフォーム。API経由で最新の脅威情報を取得できます。
  • VirusTotal: Googleが提供するサービスで、ファイルやURLの安全性を多数のアンチウイルスエンジンでスキャンできます。
  • Shodan: インターネットに接続されたデバイス(IoT機器、サーバーなど)を検索できるエンジンで、脆弱性調査などに活用されます。 :::

アーキテクチャ
#

Warrenは、クリーンアーキテクチャの原則に基づいて設計されており、以下のレイヤーに責務が明確に分離されています。これにより高い保守性、テスト容易性、そして柔軟なデプロイメントを実現しています。

  • ドメイン層: アラート、チケット、ポリシーといった中核的なビジネスロジックを管理します。
  • サービス層: システムの業務プロセスを統括するアプリケーションサービス層です。
  • インターフェース層: HTTP / GraphQL APIやSlack連携など、外部とのインターフェースを担当します。
  • インフラ層: データベース(Firestore)、ストレージ(Cloud Storage)、外部サービス連携アダプター

Warrenのシステムは、主に以下のコンポーネントで構成されています。

  • Go Backend: AIによるアラート処理機能を持つ、REST APIおよびGraphQLサーバー。
  • React Frontend: チケット管理やダッシュボード機能を提供する、モダンなWeb UI。
  • Slack Integration: インシデント対応を支援するためのSlackボット。
  • Google Cloud Services: Firestore, Cloud Storage, Vertex AI (Gemini), Secret Managerなど。
graph TB
    %% External Users and Services
    User[👤 Security Analyst]
    SlackUser[👥 Slack Users]
    Browser[🌐 Web Browser]
    
    %% Slack Infrastructure
    Slack[📱 Slack Workspace]
    SlackBot[🤖 Warren Bot]
    
    %% Google Cloud Platform
    subgraph "Google Cloud Platform"
        direction TB
        
        %% Container and Deployment
        subgraph "Container Infrastructure"
            ArtifactRegistry[📦 Artifact Registry<br/>Docker Images]
            CloudRun[☁️ Cloud Run<br/>Warren Application]
        end
        
        %% AI and Analytics
        subgraph "AI & Analytics"
            VertexAI[🧠 Vertex AI<br/>Gemini Model]
            BigQuery[📊 BigQuery<br/>Security Data Analytics]
        end
        
        %% Storage and Security
        subgraph "Data & Security"
            Firestore[🗃️ Firestore<br/>Alerts & Tickets]
            CloudStorage[💾 Cloud Storage<br/>Files & Artifacts]
            SecretManager[🔐 Secret Manager<br/>API Keys & Tokens]
        end
        
        %% Cloud Run Application Components
        subgraph "Warren Application (Cloud Run)"
            direction TB
            Backend[⚙️ Go Backend<br/>REST API & GraphQL]
            Frontend[🖥️ React Frontend<br/>Dashboard & UI]
            PolicyEngine[📋 Policy Engine<br/>Rego Evaluation]
        end
    end
    
    %% Alert Sources
    subgraph "Alert Sources"
        GuardDuty[🛡️ AWS GuardDuty]
        SIEM[📊 SIEM Systems]
        SecurityTools[🔧 Security Tools]
        SNS[📧 AWS SNS]
        PubSub[📮 Google Pub/Sub]
    end
    
    %% User Interactions
    User --> Browser
    Browser --> Frontend
    SlackUser --> Slack
    Slack --> SlackBot
    
    %% Slack Integration
    SlackBot <--> Backend
    Backend --> Slack
    
    %% Alert Processing Flow
    GuardDuty --> SNS
    SIEM --> PubSub
    SecurityTools --> Backend
    SNS --> Backend
    PubSub --> Backend
    
    %% Core Application Flow
    Backend --> PolicyEngine
    PolicyEngine --> VertexAI
    Backend --> Firestore
    Backend --> CloudStorage
    Backend <--> Frontend
    
    %% Infrastructure Dependencies
    CloudRun --> SecretManager
    CloudRun --> ArtifactRegistry
    
    %% Styling
    classDef gcpService fill:#4285f4,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#fff
    classDef slackService fill:#4a154b,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#fff
    classDef externalService fill:#ff6b6b,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#fff
    classDef warrenApp fill:#51cf66,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#fff
    classDef userService fill:#ffd43b,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
    
    class ArtifactRegistry,CloudRun,VertexAI,BigQuery,Firestore,CloudStorage,SecretManager gcpService
    class Slack,SlackBot slackService
    class GuardDuty,SIEM,SecurityTools,SNS,PubSub externalService
    class Backend,Frontend,PolicyEngine warrenApp
    class User,SlackUser,Browser userService
graph TB
    %% External Security Services
    subgraph "External Security Services"
        OTX[🔍 OTX<br/>Threat Intelligence]
        URLScan[🔗 URLScan<br/>URL Analysis]
        VirusTotal[🦠 VirusTotal<br/>File/URL Scanning]
        Shodan[🌐 Shodan<br/>Internet Scanning]
        AbuseChip[⚠️ AbuseChip<br/>IP Reputation]
        IPDB[📍 IPDB<br/>IP Geolocation]
    end
    
    %% External Service Integration
    Backend --> OTX
    Backend --> URLScan
    Backend --> VirusTotal
    Backend --> Shodan
    Backend --> AbuseChip
    Backend --> IPDB
    
    %% Styling
    classDef externalService fill:#ff6b6b,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#fff
    classDef warrenApp fill:#51cf66,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#fff
    
    class OTX,URLScan,VirusTotal,Shodan,AbuseChip,IPDB,GuardDuty,SIEM,SecurityTools,SNS,PubSub externalService
    class Backend warrenApp

まとめ
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今回は、オープンソースのセキュリティアラート管理プラットフォームであるWarrenについて、その概要と特徴を調査しました。実際に環境を構築して試してみようとしましたが、現状のドキュメントを読むだけではわからないところがあり断念しました。

特に「AWS GuardDutyやSIEMシステム、Pub/Subメッセージングなど、さまざまなソース」と連携する具体的な設定方法が分かりませんでした。

ドキュメントの Getting Started がまだ空ですし、プロジェクトはまだまだこれからのようです。しかし、そのコンセプトとアーキテクチャは非常に洗練されており、今後の発展が非常に楽しみなプロジェクトだと感じました。

参考書籍
![実践 CSIRTプレイブック ―セキュリティ監視とインシデント対応の基本計画](https://m.media-amazon.com/images/I/91WSklw6X5L.AC_UL116_SR116,116.jpg =200x)
![詳細 インシデントレスポンス](https://m.media-amazon.com/images/I/71nAtlb3S6L.SY522.jpg =200x)
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